創業15周年を迎えるAREAの2017/2018年のブランドテーマは「glam」。このテーマを軸に、2017年9月より、AREA各店では独自企画や多様なブランドとのコラボレーションに取り組み、毎月様々なイベントを開催中です。
ホームページでは、スペシャル企画として連載対談「日本のインテリアの行方」をお届けします。毎回様々なゲストの方をお迎えして、貴重なお話を伺いますので、どうぞお楽しみに。
第一回目のゲストは、ZERO FIRST DESIGNの佐戸川清さんです。
(野)今日は、「日本のインテリアの行方」というテーマでお話を伺いたいと思います。
(佐)日本のインテリアの現状を考えると、一段落ついている感じ。これからどういう方向に行くのかを、マーケットが階段の踊り場で様子を見ているような感じがします。
(野)そうですね。これから階段が始まって上って行くというイメージですよね。
(佐)踊り場にいる人たちが、消費についてどのように考えていくかがポイントだと思います。今は全てが既製化されて、量産もされて、いろんなものが氾濫している。
(野)今は量に大きく傾いていますね。そんな中で量と質については、いつも対で考えていかなければいけないものだと思います。僕らが 15年前に会社を興した頃に、希望の先とか光の出口のようにイメージしていたのは、質を大切にしたいということでした。
(佐)それぞれのユーザーが、生活の方向性や生き方を確立してきたところ。社会が豊かになって、判断基準も上がった。これまでのありとあらゆる経験を通して、次に何を選ぶか?ですよね。質の高いものを消費しようとする人たちが、おそらく今後の日本のインテリアの需要層、主流になるんではないでしょうか?
(佐)人生100年の時代。60代でリタイアしてもあと40年の人生がある。そこがマーケットの面白いところですよね。既製品もいいけれど、生活のオリジナリティやクオリティを追求して、人とは違う自分だけのものを持ちたいとか、自分なりの空間で暮したいと考える人がどんどん増えているという実態がある。今後は、住宅のリノベーションやリフォーム、小さな改装も含めてますます増えていくでしょうし、住まい方や空間は自分で決めて、その中に必要な道具や家具といった調度品にも自分のオリジナリティを出したい、自分のオートクチュールでいきたいという人がもっと増えるでしょう。
(野)質って何なのかと考えたとき、個人によってそれぞれ求めるものは異なりますが、それに応えられるのがオーダーメイドなんですよね。オーダーメイドの家具や、我々の編集力を駆使して、その空間がオートクチュールになればいいなとずっと考えていました。そして、今までは皆が一つの階段を上ってきたけれど、これからはそれが分岐していく。多様化した価値観の中で、我々がもともと目指していたオートクチュールや、家具単体でなく空間思考の方向性の階段が太くなっているのは確かです。量産の方に行きかけて、あれっ?と思った人が、進む方向を変えてきています。
(佐)だけど、これまでの人は既製品を買い続けてきたから、提案がなければ家具のオートクチュールなんて買おうと思わないし、できるとも思っていなかった。それができるという発信を野田さんがしたんですよね。
僕は創業して40年ですが、最初にスタートした頃は、団塊の世代の人たちの需要が旺盛で消費力もあった。そうすると、一人一人に対応できないから、こちらからライフスタイルをどんどん提案していくことになったんです。そうした既製品を買い続けてきた世代の人たちが、今オーダー家具に興味を持ち始めたところなんじゃないかな。
(野)本当にそう思いますし、実際にそうなってきていますよね。
(野)最先端のオートクチュールの家具を作るということは、メーカーさんがそれに追いついてものを作らないといけない。今までの仕事のルーティンの中では対応しきれないな、ということもあるかと思うんですが、それがマーケットを作っていくツールになるものだと思うので、できればいつものルーティンとは別枠でトライしてもらいたいですよね。
(佐)これまでメーカーは、技術者とか職人ではなく、効率化されたものを作る生産技能者を増やしてきたけれど、はたと気がついたらマーケットは職人を求めるようになっていた。量から質の高いもの作りに変換して、オーダーにも対応できるような会社の体勢作りに取りかかっているところも、今はたくさんあるんだけどね。
(野)ありますね。少しずつ変わってきていますよね。
(佐)本当の技術を持った職人さんの集団を作らなければいけないんだと気付いたところから、今後生産者として勝ち抜いていくんじゃないかな。歴史的に見ても、職人社会が日本の文化を作ってきたし、質の高い商品を世界に発信してあっと驚かせてきた。今は、メイドインジャパンの日本の職人のもの作りにもっと目を向けて、育てていかないといけない。それが、長期的な目で見たときに、生産者の延命に繋がるんじゃないかと思います。
(野)いい技術者が少なくなっていますよね。
(佐)それが一番怖い。デザインをして「これを作ってよ」と言っても、「うちではできない」と断られるんですから。
(野)以前ミラノのある私邸に招かれたんですが、そこの部屋にあるコンソールとか、照明とか、何気ないんだけど全部が相当考えられていて、一つ一つの置き家具がまさにアート。代々受け継がれてきた高価な家具なんだと思いますが、そういうアートに近い家具を作っていかないと。日本の消費者の、偏差値50みたいな空間に対する意識も、これからレベルアップしていくといいなと思います。
(佐)そうなんですよね。ラグジュアリーなラインにお客さんを導いていくのも、これからの僕にとってのミッションじゃないかと思っています。本当の豊かな生活文化というのはこういうものではないですか?と、発信したり提案していくことが自分の役割かな。空間の良質さとか調度品の良質さは、その家の財産。日本では昔から“家財道具”と言いましたし、孫子の代まで伝承されるものだったんですよね。家具は消費するものではなく家の財産なんですよと、発信していきたいです。野田さんもそうじゃないですか?
(野)そうですね。ただ、それに見合う商品が今の日本にはほとんどない。良いものを作っていかないといけないと思うし、存在力のあるアートに近いものを作っていきたいです。
(佐)財産という価値を生むためには、使い捨てのように“その時必要だから消費する”というものじゃないということを考えてなければいけないんだよね。家具も空間も、これからの生活に合うような価値あるものを我々が提供していく必要があると思います。それがものづくりを行う者としての社会的なミッションだと思うんです。
(佐)やっぱり自分の力だけで言い続けていくことはできなくなってくるので、同じ方向に向かっている人がいたら、お互いの得意技を合体させて一緒に仕事していくという時代になるんでしょうね。銀座三越の家具売り場で、野田さんと一緒にやりはじめたところですけど、これからも野田さんみたいな仲間がいれば、一緒にやっていきたいなと思います。
(野)個人でやるのは限界がありますから。同じミッションがあるのであれば、一緒にやる方が楽しいですしね。良質の時代に行くために我々ができることは、骨身 を惜しまずやっていくということ。そして、家具を消費する道具から家財道具に変えて、この国のライフスタイルに影響を与えていけたらなと思います。
佐戸川 清(さどがわ きよし)
代官山にショールームを持ち、独自の世界観を持ったインテリアを国内外に発信するインテリアデザイン事務所、ZERO FIRST DEZIGNの代表取締役。『心地よい生活』とは何かを第一に考えたインテリアデザイン、オーダーメイド家具、リノベーションなどを提案する。
写真:中村嘉昭